第172話

「でもその代わり、星來が俺を信用してくれるまでは星來とキスしない。」


「……ちょ、声、おおきいから」


「星來には一切触れない。」



星來が中腰になり、少し離れたところにいる朱朗のシャツを引っ張って寄せる。  

 

   

朱朗は一瞬、触れられた嬉しさに手をつかみかけたが。思いとどまり、星來に従ってただ近付く。



「いいから、座って。」


「禁煙もするし、勝手にマンションまで押しかけないから。」



朱朗が椅子を引いて座り、再びスマホをタップする。



そして星來の方に画面を向け、差し出した。



「とりあえず、ここ。数字の4、押して。」


「え?……4?」


「いいから。押して。」



いつになく真剣な様子の朱朗に推され、星來がそっと人差し指を添える。そして、「頼むから。」という朱朗の言葉に、4を押した。



すると、画面には。



『端末は正常に初期化されました。』



その文言が表示された。



初期化の最後の暗証番号入力。4ケタの最後の番号を星來に入力させたのだ。



「う、うそ……だって、仕事の連絡先がたくさんあるのに……!」


「うん。必要なら向こうからかかってくるし。」


「そうだけど、」


「もう、他の女とは連絡取らないから。」



数秒、じっと聖來を見つめていた朱朗。ふっと口角を上げると、席を立とうとした。

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