第162話

「それで、謝罪はしたの?」


「……普通に、その場で何度かは謝ったけど…。」


「誠意のないやつね。ただひたすら平謝りなやつ。」


「…見てないのになんでわかんの。」


「会社でどれだけ謝られてきたと思ってるの。」



NTRと仕事のミスは同等の罪とはいいがたい。



しかし青司は、これだけ元気のない朱朗を見たのは初めてかもしれないと感じていた。クズなりに反省はしているが、それをどう彼女に償えばいいのか分からない様子だ。



「…朱朗。『ごめんなさい』は賞味期限付きなんだよ。」 


「…………」


「自分がどれだけのことを星來ちゃんにしてきたかを並べてみて、それの何が駄目だったかを早めにちゃんと伝えないと。」


「いかにも、会社人間って感じの言い草。」



青兄の言うことは、普通の常識人が言うような正論だ。でもそれを“常識人の正論”と括ってしまう自分。業界人として、どれだけ外れた道を進んでしまったのだろう。



青司が蛸せんべいを一枚取り、ちょっと今食べるタイミングじゃなかったかもしれないと、再び器に戻す。     

 


「実はね、僕、秋からオーストラリアに行くことが決まったんだ。」


「…………え」


「支店を置くための、駐在員として行くんだけど、」

 

「どれくらい?」


「さあ。3年になるか、5年になるか。」



今日朱朗が呼ばれたのは、他でもない青司がオーストラリアに異動するという話だった。9月に経つことが決まったらしい。

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