第154話

「さっき正瑞に、このソファで寝るくらいなら星來の部屋を無断で開けてやるって言われてさ。」  

   

「管理会社への訴訟準備しとく。」



そんな正瑞はなぜかロビーにいない。他のコンシェルジュと交代したらしい。いや逃げたともいえなくはない。

 


エレベーターの中では、朱朗は何も言わず。無言の浮遊感がつのる。 



星來は油断していた。どちらかというといたたまれない気持ちに比重があったから。



今までは深夜の訪問に警戒は怠らなかったというのに。



その時は深夜であろうが、自分の身がどうなるかなんて考えていなかった。




「星來。疲れてるね。」


「朱朗のが疲れてるでしょ。」



部屋の鍵を開けようとする。心と身体の疲れのせいか、なかなか鍵穴に定まらず、朱朗が変わって開けてくれる。



そんな優しさに、安心ばかりを感じてしまい。



「…ありがと」



ため息交じりに小さなお礼をつむぐ星來。



まだ星來はドラマの撮影が終わっていない。クランクアップまで2ヶ月は残っている。あさっても朝から撮影だ。





部屋に入って、リビングの電気を点けようとした時だった。



その電気を点けようとする手を、手のひらで止められる。



「あろー……?」

  

「星來、俺を好きって言ったよね?」


「……っ」



後ろから朱朗の方へと向かされて、そのまま唇に唇が触れる。



前みたいに、むさぼるようなそれじゃない。ただ触れるだけのキスから。唇の端から端へと朱朗の唇が流れていく。



口内に侵入するのと同時に、朱朗の手が星來の胸へと触れて。



「や、やだ」



星來が拒もうと手で遮ろうとするも。朱朗の反対の手はそのまま背中へと周り、トップスの下から手を入れる。



4月最初の週。薄めのニットとキャミソール下にある下着のホック。朱朗があっという間に取り外していく。



「ねえ、まって、おねがいっ」



震える星來の声。



暗い部屋に、呑み込まれていく。

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