第153話
スタジオに戻ってきてから、どうも星來に覇気がない。星來の違和感に気づいていた不二海が、星來に小声で話しかける。
「星來ちゃん、早めに帰りな。中途半端に残ってると後々面倒だよ。」
「………じゃあ、司会者さんに挨拶だけして帰ろうかな。」
「うん。他の人には体調悪くて早めに帰ったっていっとくから。」
「ありがとう。」
0時でも今から飲み会を開催するメンバーがいるのは珍しくもない業界。下手をすれば朝まで帰れないコースも存在する。
不二海の気遣いの言葉だった。
そしてスタジオにいた一弥も、星來に駆け寄ろうとするのだが。星來があからさまに視線を反らすため、近寄れなくなってしまった。
大御所司会者への挨拶を終えた星來。マネージャーに体調の悪い旨を伝え、早々にタクシーで帰ることとなった。
私は何をこんなに動揺しているのだろう。朱朗だって、他の女性とキスしていたんだし。私だって不可抗力でしてしまっただけだから、同罪なのに。
ねえ朱朗。なんで私たち、キスは私たちだけのものなのに、セックスは違うんだろうね。いつも身体と心が切り離されて浮遊感を感じている間に、朱朗とのキスは終わってしまうの。
私がいけないのか。朱朗をクズにしてしまったのは、馬鹿げた不可侵条約と、恐怖に打ち勝つことの出来ない自分のせいだ。
朱朗のことばかりを思っていたからだろうか。マンションのロビーに着けば、そこにはソファに座り、星來の帰りを待つ朱朗の姿があった。
「……あろう。」
「えらく早いね。」
「うん」
特に、怒っている様子はなさそうな朱朗の笑顔。
それでも星來は、キスを咎められるか、下手をすれば、もうこの馬鹿みたいな恋人ごっこをやめようと言われるのではと身構えていた。
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