第152話

「……いこう星來。君がいないと変に怪しまれる。」


「い、ちやっ」



強引に手を引かれる星來。振り返り朱朗を見るが、特に何も言わず。ただ自分の瞳に映りそうなほど、一点に見つめている。



捻挫をしていた朱朗は、すぐに止めることは出来ず。



出て行った二人の背中を見つめることしかできない。



響木一弥という星來の同級生。ずっと脅威になると感じていた男が、本当に脅威となった瞬間だった。 

 

 

「はは、……盗まれちゃった」



ひしひしと感じるこの感情を、なんと呼べばいいのか。



目を閉じれば、真っ黒なうごめきがシミを作るように侵食していく。



―――……だれかを潰したい、


壊したい、苦しませたい、


快楽に溺れたい……―――



もろいばかりの自制心が、追い打ちをかけるように粉々に打ち砕かれていく。



いつもなら手当たり次第、後腐れなく女を抱き潰せばこの想いは治まるはず。なのだが――――……





スタジオに戻った星來は、他の出演者と愛想笑いで場をやり過ごす。



『HANZO』の現場からどうやって戻ってきて、どうやってスタジオで過ごしたのか。周りは何一つ滞りなく進行しているというのに。



バラエティにつきものの笑いどころが、どこかも分からず。不二海を真似るように笑顔を作った。



自分の身体はそこにあっても、気持ちがそこにはないような。浮遊感を感じるばかりの時間。



星來は何に戸惑っているかも分からないほど、動揺が体内を駆け巡っていた。



気もそぞろに、いつの間にか全撮影が終了する。時計はもうすぐ0時になるところだ。



朱朗はスタジオ入りすることなく帰宅する予定となっていて。RainLADYは新曲披露により、ラストまで残っていた。

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