第151話

「っ――――――」     


       

一弥が、星來の唇にキスをしたのだ。



朱朗の目の前で。



不可抗力とは言え、不可侵条約第二項が破られた瞬間だった。



「なに、してんの……」

 

「見て、わかんない?」



テント壁際に座る朱朗を見下ろし、目で威嚇する一弥。



「星來にキスしてるの。」



呆然とする朱朗。まさか自分の目の前で条約が破られるとは思わず。すぐに頭が追いつかない。



もちろんそれは、星來も同じだった。



一弥は悔しさを自分の中で処理できず、何かにぶつけたい気持ちでいっぱいになっていた。



クズはクズでしかないと思っていたかった。この会場でも、クズは他の女と仲良さげに喋り、星來の入る隙を失くしていた。  



キスだって他の女としていることも覚えていないようなクズ。クスはクズのままでいればいい。



――――それなのに



なぜ彼は自分と同じエリアまでいったのか。同じ場所にいていいはずのない存在が、何を必死になって聖來を手に入れられることを拒もうとするのか。



クズの恋愛に対する矛盾点が多すぎて。理解が出来ない。



最後のエリアまでいきついたのは、自分と同じくらい努力をしてきた証拠だ。いやだ。その努力が、星來に本気の僕と同量だなんて。思いたくもない。  


 

一弥は、100万円獲得出来なかったことよりも、朱朗に対する嫉妬心が最高潮に達していたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る