第150話
次の参加者がスタートを切る中、朱朗と星來は観覧席の裏にある控え室用テントにいた。
星來はタオルで朱朗の頭をゴシゴシと拭き、プードルを拭く飼い主のようになっていた。
「あーーーまじもっかいやりたい〜〜」
「いいとこまでいったのにね。」
朱朗の左足の甲は軽い捻挫で、救護班の人に湿布を貼ってもらった。
大事に至らなかったと知り、ほっと胸を撫で下ろす星來。
そんな潤んだ瞳に気付いた朱朗が、簡易チェアから見上げる。
「ごめんね、星來」
「なんで。私に謝るの。」
「今すぐにキスできなくって。」
タオルを頭に、半乾きの髪の合間から、朱朗の丸い瞳が覗く。
俳優が何身体張ってるのかと馬鹿にしていた部分もあったが、朱朗はどんな仕事に対しても真面目だ。その証拠に、生涯帰宅部として過ごした彼が、最後のエリアまでいったのだ。
星來はうかつにも、朱朗に惚れなおしてしまう。
うかつにも。
「ちょっと、だけなら」
いいかもしれない。と、星來が朱朗にキスしようとした時だった。
「星來、ここにいたの?」
テントのブルーシートを巻き上げ、一弥が入ってきた。
朱朗が横目に、じとりとした視線を這わせる。
「……笑えない王子も池に落ちるんだね。」
「うるさいよ笑えないクズ。」
一弥が簡易チェアに座る朱朗に睨みを利かせる。
「なんの用?めっちゃ邪魔なんだけど。」
朱朗が鼻で笑いながら一弥に言えば。
一弥が眉間にシワを寄せ、見下ろすように眉をひそめて。その拳が、ぎゅっと握られる。
朱朗とのキスを見られそうだった羞恥に、顔を赤らめる星來。
その肩を、一弥が強く抱き寄せた。
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