第147話

星來が隣にいなくても分かる。赤いランプの灯るカメラの存在を雰囲気で感じ取るのと同じで、この空間で今、自分を一番に応援してくれているのは星來であると。


 

スタートのサイレンが鳴り響き、朱朗が駆け出す。



一弥ほどの軽やかさはないが、それでも最初の坂を勢いで登っていく。次の池の上に置かれた足場から足場へのジャンプも、慎重に進めていく朱朗。



周りは、もっとぐらつく彼を想像していたせいか、随所随所で感嘆の声が上がる。 



「やるじゃん朱朗!」



隣で華井が感心するように見入っている。しかし星來は手に汗握る思いでつぶやいた。


 

「……わたし、じっとしてらんない……」



今すぐに朱朗の元に行きたい気持ちでいっぱいだった。たかが席が前後の地方アイドルにヤキモチを焼く意味なんてなかった。だって、朱朗が今自分を求めているのが分かるから。



最初から朱朗の隣に座っていてあげればよかった。



そんな中、2箇所目の難所に差し掛かり、朱朗が躊躇して深呼吸をする。



大きなタイヤからタイヤへと、頭上の鉄筋から垂れ下がる縄だけで移動するアスレチック。タイヤからタイヤへの距離は長く、縄につかまり身体の反動だけでジャンプをするというもの。



しかも丸みのあるタイヤは当然足場が悪い。足をすべらせれば、捻挫は免れないだろう。

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