第146話

……――――二人、音がかき消された空間。



瞳が瞳に触れ、離れず。互いのテレパシーが一直線に通って。長年の身体感覚を通し、感情を受容する。




「(ああ。やっぱり朱朗。めちゃくちゃ緊張してる。)」



次は朱朗の番で、星來は一弥よりもクズの心配をしていた。



ラスト直前までいったこの空気に、完全に呑まれているだろう。そう思ってクズの方を見たのだ。



当然朱朗は、口から心臓が飛び出そうなほどに緊張していて。今すぐにでも星來に手を握ってほしいくらいだった。




――――笑えない王子は余裕で、スタンバイ前も緊張は見せていなかったのに。



俺はやっぱり、星來がいないと生きていけないクズでダメな男なんかもしんない。今すぐその通りだと誰かつっこんでくれ。



星來がいない人生なんて考えられない。何事も二人で上手くやってきたのに。今さら離せるわけがない。



縁を切ればぎりぎりの状態で生かすなんて。余裕のない男の言葉でしかない。わかってる。わかってるしそんなん――――……。




一弥がタオルで周りのスタッフに拭かれている中、朱朗の名前が呼ばれる。



まさかのアイドルからクズ俳優の登場。会場からはどよめきが沸き起こる。



朱朗がアスレチックのスタンバイ位置にいって、いつもの饒舌で笑顔のクズはそこにはいない。会場からも、「緊張するなクズ」と野次が飛ぶ。



司会者がインタビューをしても、つまらない受け答えしか出ず。背中に汗がつたう朱朗。上手く喋れない自分に歯をくいしばった。



しかし、まだ応援メッセージを求められていないはずの星來は、立ち上がって朱朗に向かって叫んだ。



「100万獲れなかったら、夕飯抜きだからーーー!!!」



もはや応援かどうかも分からないが。それを聞いた朱朗がすぐに、



「お母さんか。」



とツッコミを入れる。会場が笑いに包まれる中、朱朗は少し緊張がほぐれた気がした。

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