第141話

4月のスプリングフェスタ撮影日。


 

『HANZO』のオファーがきてからたったの2ヶ月。そんな短期間でアスリート並みの筋肉がつくとは思えず。そんな中ついに本番の日がきてしまった。



今日の現場入りはなにせ早い。総勢200名もの芸能人が参加するため、先輩の楽屋への挨拶回りをしなければならない。



しかし朱朗も星來も、すでに芸歴は14年ほど。芸能界でも先輩になりつつあるため、挨拶に来る後輩を待つのもまた仕事の一環である。   



星來は最初スタジオ録りで、その後中盤で『HANZO』のメインステージへと移動する。



一応同じ子役時代から共にしてきた友人として、朱朗の応援係としてかけつけることになっていた。



「はあ。うちの生意気一弥が、まさか自ら『HANZO』に出たいだなんて。」

 


スタジオのひな壇に並ぶ不二海と聖來。不二海が、甥っ子の成長を思うかのようにぽつりと言った。



「……怪我とか、心配よね。」 

  

「それな。夏のツアーまでにはなんとか治してもらわないと。」



男って。どうしてこうも軽いのか。夏のツアーどころか今後全ての仕事に支障が出るかもしれないのに。



一弥のことももちろんだが、それ以上に朱朗のことが心配な星來。小さい頃から移動は車ばかりで足の筋肉なんてまるでない。荷物持ちだってマネージャー任せのくせに。



昔、舞台の照明技師が5メートル上の足場から落ちた事故があった。脊椎の損傷で下半身不随になり、今では車椅子生活を強いられている。


 

それを思うと気が気ではなかった。

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