第139話

「もういいよ。僕のものになれば。」


「……そう、なの?」


「背徳的な恋も一つのプレイじゃない?」


「なに言ってるの。」

 


一弥がコンブチャの入ったカップに口をつけて。その瞳が柔和に弧を描く。どれだけたくましくなっても、中性的な美しさだけは変わらない。



ふと、見惚れる星來。


  

よくよく考えれば、一弥とは中学から一緒にいて8年になる。





一弥とはそのままカフェで別れた星來。カフェからの帰りのタクシー内。星來は再び思い出していた。



プールに捨てられた一弥の用具、全てを拾った後、二人で体操服に着替えている時のことを。



更衣室は閉まっていたから、タイル壁の後ろで背中合わせになって。寒さをいち早くしのぐための苦肉の策。




「……あのさ、女優ともあろう風音さんが、よく僕なんかと一緒に着替えられるね。」


「星來ってよんでくれていい」


「……いや、さすがにそれは。」 


「一弥、タオルあるけど。使う?」


 

そう言って星來は、下はパン一、上はスポブラ姿でタオルを渡してしまった罪な女。その時の一弥は当然真っ赤な顔をしていた。



「…………すごい、度胸。」


「え?なにが?」


「いや。だって、恥ずかしくないの?」


「え?舞台裏では廊下を歩きながら着替えるものよ?」



言葉につまる一弥。とにかく早く着替えようと星來からタオルを受け取った。



「……ねえ、他の男子の前では、こういうの、やめた方がいいよ……」

「なんで?」

「なんでって。盗撮されたらどうするの。」



星來は自分のない胸を見下ろして、不思議な顔を浮かべる。そういえば母親が、世の中にはロリコン好きもいるから気をつけなさいと言っていたのを思い出す。

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