第138話

打ちひしがれるその背中を、遠目に見ていた星來。



夕焼けを前に立つ彼の小さな背中。その綺麗すぎるキャンバスに感動さえ覚えるのに。誰も汚してはならないのだと、何かが星來の中で弾け飛ぶ。



勢いをつけて駆けて行き、彼の横を一瞬にして通り過ぎる。


  

一弥は秋風と共に、彼女の香りを感じた。

 



星來が一弥の視線から反らそうと、温かいシトラスティーのカップに手をつける。



「……さあ。私といるうちに、あなたは徐々に私を好きになったんじゃないの?」


「徐々に?そんなクレッシェンド徐々に強くみたいな恋だって?」


「セリフがくさいな。」



 

プールの水が飛び上がり、跳ねるようにしてしずくがゆっくりと舞い散る。いくつものきらきらが、立ちすくむ一弥に降り注いだ。



星來がプールに飛び込んだのだ。



散らばった彼の用具を一つずつ集めていき、彼の隣に置いていく星來。



夕日の映る水面が彼女を綺麗に呑み込んでいって。その美しい光景に胸を打たれつつ、一弥も一緒になって飛び込んだ。



「………僕に関わっちゃ、ダメって言ったのに!」


「見て響木くん!夕焼け空なのに、虹が!」


「それより風邪引くって!」

  

「少しは感傷に浸りなさいよ」



涙を隠すように何度もプールに潜っていた一弥が、今では自分を翻弄しそうなまでになっている。



星來は動揺する指でカップを持ち上げた。

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