第137話

「ちょ、一弥!」


「ねえ、好きだよ。知ってるよね?」


「……し、ってるわ」


「もし僕が100万獲ったら、僕と付き合ってもらうからね。」


「……え?」


「星來の気持ちなんて関係ないよ。僕と付き合えば気持ちも変わるだろうから。」


「…………」



この間のアミューズメントバーから、どうも一弥の距離感がおかしい。大学に入ってからというもの、積極的ではあるが、ここまで強引なのは初めてかもしれない。



中学生の頃、いじめられていた彼は、いつの間にここまでたくまくしくなったのか。



「わかる?僕がいつから君を好きか。」



星來と一弥が、カップから上がる細いけむりの奥で互いに見つめ合う。



一弥が自分の前髪を手で払うと、まっすぐな瞳が現れて。星來の鼓動が綺麗にゆれる。





中学1年生の秋、彼の鞄がプールに投げ込まれたあの日。



「ごっめんねー響木くーーん。君の鞄、間違えてプールに捨てちゃったーー」



教科書や筆箱の中身もバラバラに、プール全面に散らばって浮いていた夕焼け色の水面を思い出す。



放課後、プールを目の前に佇む一弥。小さな両拳を握りしめ、今にも泣き出しそうな細身の背中。



なんの罪もない不条理ないじめ。小さい頃からただ歌うのが好きなだけだというのに。なぜ声をからかわれなければならないのか。



そんな不条理に比例するかのように、事務所に所属していてもなかなか仕事はもらえず。母親はそんな一弥を咎めるばかり。



世界は僕に辛いだけしか与えないつもりなのか。それならいっそ、夕焼けが僕を焼き尽くしてくれればいいのに。

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