第136話

「せーら、帰るの?」


「うん。」


「気をつけて帰んなよ。」 



珍しく、引き止めもしない朱朗。少しばかり名残惜しい気もする。と、1階のプロテインカフェスタンドで自己不満を解消し、ジムを後にした星來。



スマホを見てみれば、一弥から着信2件とメッセージが入ってきていた。



《今日撮影が早く終わりそうだから、夜カフェしない?》



あまり一弥が夜に誘ってくることはない。アミューズメントバーの時だって嫌そうな顔をしていたくらいなのに。



〈外で大丈夫なの?〉


《なに?僕の家に来たいの?》


〈ちがうってば。写真撮られない?〉


《個室予約しとく。》



星來はドラマの放送が差し迫っているし、一弥だって『その弾丸はこんぺいとう』の主題歌である新曲の発売日が近い。今スクープされるのはまずいのではないだろうか。



《ほんの一時間でいいから。》



そういわれ、仕方なく星來は夜カフェへと向かうことにした。




· ·· · • • • ❦ • • • · ·· ·



    

「実は、今度のスプフェスで『HANZO』に出ることになってさ。」


「……え?一弥が?」

       

「うん。それで、あのクズに宣戦布告しといたから。」


「…………」



すでに営業が終了している裏通りのカフェ。バーのようにカウンターが並ぶ小さなお店だが奥には個室がある。



このカフェは華井の兄が経営しているRainLADYの御用達カフェだった。華井は母方の叔父がサニーファクトエンターテイメントの社長でありながら、華井の姉弟は多伎に渡って事業を展開していた。  

 

  

「ねえなんでいきなり『HANZO』で勝負なの?わざわざ身体張らなくてもよくない?」


「こないだ心理戦はやったからね。次は体力勝負かなって。」


「一弥らしくない。」


「僕らしいってなに?」


「無機質、無頓着」


「ああ。こういうこと?」



隣に座る一弥が、星來の唇にキスしようとする。



星來が驚いて顔をそむければ。  



一弥が星來の頬をつかむように、無理やり自分の方へと顔を向けさせる。

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