第122話

「ん、あろう、ちょっと、こわい」


「俺に身体預けてみ?怖くないこわくなーい」


「ちょっと、…はげしっ」



腰を密着させ、後ろから回した手で星來の後頭部を強くつかむ。後ろはキッチンのシンクにふさがれて、唇は余裕のない朱朗に包囲されて。 



むさぼるようなキス。リズムのない舌使いに、星來は朦朧とする頭を必死に一定のリズムでかき立てる。



最後に舌を吸われながら離されて、星來は過呼吸になりそうな息を深く吸い込み整えた。



朱朗にとっては余裕がないキスでも、星來からすれば余裕たっぷりのキスにしか感じられず。その想いが交差するから星來は身体を預けられないのだ。  



「処女は、どっちだったかしら。青兄だったか、一弥だったか、」


「たった2回を忘れるくらい、星來はクズなの?」


「1度目と2度目がどっちがどっちだったかなんて。そんなに重要なこと?」


「卒論以上年金以下には重要なこと。」


「卒論も年金も、重要よね。」 



朱朗が星來の鎖骨を指でなぞっていき、胸に降りようとしたところで星來がその手をつかまえた。



片眉をあげ、わざとらしく『ディープまでしてなんでやねん。』の顔を作る朱朗。



それに『第三項は条約により侵せません。』と、星來が朱朗のつかまえた手を強く握る。



「心理戦ってやつですかい。」


「心理戦にしては幼稚すぎない?」


「心理戦もえっちに含まれますよ?」


「セックスってそんなにわずらわしいものなの?」


「青兄と笑えない王子に習わなかった?」


「ただ私を責めるばかりで教えてくれなかったわ。」 



朱朗が鼻で笑い、星來の髪を撫でる。そして長い髪を指で流しながら、彼女の素顔をのぞきこんだ。



「今日泊まってって、明日朝スタジオ送ってってあげよっか。」


「……いいけど、寝るならソファで寝てね。」


「いやいいんかい。」

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