第117話

朱朗にあげるチョコがなくなってしまい、急遽初めてのチョコ作りに挑戦してみたのだが。



これまで自炊はほぼ失敗してきた星來。唯一作れるお茶漬けとふりかけご飯、レトルトのスープが得意料理となっていた。



チョコは難しいと諦め、朱朗への嫌がらせも込めて、スパイスたっぷりのキャロットケーキを作ろうとしたのだが。



「星來の甘さが身にしみる。」


「確かに。結局朱朗のために駐車場契約したしね。私って朱朗に甘いのよ。」



砂糖の分量を間違えたのか、貴重なスパイスの風味をすべて殺していた。



それでも出された分を食べきった朱朗。甘いのは朱朗も同じだ。いや、星來に聞きたいことが多すぎて、タイミングを逃し食べきってしまったともいえなくはない。




「ねえ、それよりさ、」



ソファに座る朱朗が、ビーズクッションに座る星來には視線を合わせず、咳払いをしてから言った。



「今度のドラマ、不二海とのキスシーン、あるんだって?」



星來が、ルイボスティーの入ったカップを持つ手を止める。小さくため息を漏らすと、ルイボスティーが波を作り、カップの向こう岸に打ちつけられた。



まさか。こんな夜ふけにやって来たのは、バレンタインよりもそれを聞くためだったのだろうか。




      

星來は春からのドラマで、久々の主役に抜擢されていた。



日曜夜の青春学園ドラマ『その弾丸はこんぺいとう』。調理学科の高校生たちが繰り広げる、スイーツと青春のラブストーリー。



そして相手役はRainLADYの演技派、不二海ふじかい佐里さりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る