第116話

「おはようございます星來。」


「おはよう、マッハ正瑞。」


「さて、唐突ではありますが、送りオオカミをしそうな笑わないアイドルとはどういったご関係で?」



正瑞が、自動ドアから出る5歩手前で星來を引き留めた。



「女優のプライベートに干渉する気?」

  

「彼が学友なのは存じております。何度か送られている姿は拝見しておりますから。」



正瑞は主に、アミューズメントバーに行った際、一弥にタクシーで送られてきた時のことを言っていた。一弥は変装をしていたし、何よりタクシーから降りてはいないのに。



正瑞はRainLADYの彼であることを見抜いていた。



「……深夜の彼との関係をあなたが咎める必要はないでしょ?」


「咎める?私が?あなたの身内でもない私が咎める必要がどこに?」


「…………」



何が言いたいのか理解できない星來。正瑞に怪訝な目を向ける。



「おっと。それよりもバレンタインが間近に迫っておりますね。」


「……は?バレンタイン?」


「今や一年の中で一番経済を回すと言われている日本の貴重な文化です。」 


「バレンタインの発祥はイタリアじゃなかった?」


「ハイグレードマンションに常駐するコンシェルジュに、ハイグレードチョコレートの需要が一つくらいあってもイタリアの神様に恨まれることはないと思うんです。」


「………需要一つに対する求め方のクセが強い。」


「そうです。私めが、欲しがり屋の正瑞でございます。」



マッハ正瑞になったり、欲しがり屋の正瑞になったりと、ハイグレードマンションのコンシェルジュは多忙なのだ。



渋々、朱朗に買っておいたジャンポールエヴァンの箱入りチョコを正瑞に渡した星來。おそらく正瑞は、一弥との関係を口外しないための賄賂、いや助力品を求めたのだろう。

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