第111話

楽しい後の、虚無感に浸る星來。


 

スマホ画面を点灯させれば、朱朗から3件の着信が入っていた。



「(きゅん。)」 



星來はクズからの着信に、容易く胸をわしづかみにされてしまう。たった今ネガティブになっていた彼女が一掃されるほどに。



一弥がいる前で電話をかけ直すのはタブーだろう。いや、タクシーの運転手さんに聞かれる方がずっとまずい。



着信時間は0時前。こんな時間に電話をかけてくるなんて、絶対にろくでもないことだろう。それでも星來は、早く自宅につかないかと気持ちがいでいる時だった。




窓の外に、よく知るハットを被る人物が目に映る。眼鏡をかけて、ロングカーディガンを羽織る人物が。



「(………朱朗?)」



暗い闇夜でも猫目なのかと思うほど、その容姿を隠そうとする男を見つけられてしまう星來の瞳。



タクシーが信号待ちとなり、スモークガラス越しにその姿が確かなものへと変わる。



隣で腕を組む女性。ピンクの髪をポニーテールにして、ジーパンのダメージが酷く太ももはほぼ出ている。派手な見た目なのに、朱朗の方が目立ってみえるからやはり好きな人は鮮明に見えてしまうのか。



一気に星來の気持ちが沈むも、こんな風に感情の起伏が激しいのは慣れていると自分に言い聞かせる。



慣れているから。“浮気”なんて今さらすぎて。こんなのいつものことだから。大丈夫。

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