第110話
帰りのタクシー内。
深くキャップを被り、マスクをする一弥が「下着は聞いてない。」と何度もぼやく中、同じようにマスクをする星來は「はいはい。」と適当に聞き流す。
機嫌が悪そうな一弥を尻目に、星來が一弥にオフショ画像を送ろうとスマホを取り出して、深い息を漏らす。楽しい時間はあっという間で、気付けば0時を回っていた。
朱朗のことで悩んでいるのを忘れるくらい楽しい時間。ふと、カウンターでタバコをふかす不二海のことが頭に浮かんだ。
『クズに恋する最悪な女でも、クズになったら生き残れないよ。特に清純派で売ってる星來ちゃんみたいな子は。』
イメージのよさが確立された有名人ほど、裏での悪行が明るみになった時の落ち方は酷いものだ。
朱朗は早い段階で世間に悪印象を与えてきた。子役という可愛いばかりのイメージから、一気にクズ俳優へと飛び、それがむしろ世間の好奇を掻き立てた。
不二海に言われなくとも、よく理解はしているつもりなのに。芸能界から消え去った芸能人を何人も見てきたのだから。
嫉妬が入り乱れて、当てつけのように朱朗を煽って。無限とも思われるその嫉妬と当てつけが、自分の世間に対するイメージを作り変えていく可能性は充分にある。
朱朗を好きな自分が、クズへと引きずられてクズになる可能性が。
それなのに。なぜ好きなのだろう。
例え自分が芸能界から消える未来がみえたとしても、朱朗を好きだと思える自分は果たして女優としてのプライドがあるといえるのか。それはイコールとして風音の名も捨てる覚悟もあるといえるだ。
もし芸能界からも消えて、風音からも追い出されて、朱朗への気持ちも敵わなかったとしたら。自分はどうなってしまうのか。
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