第109話

「………星來、水着って言ってなかった…?」



一弥の暗い低音が響くも、星來は「下着もあるって言わなかったっけ?」と、怒りを感じ取れていなかった。




「星來ちゃん、華奢でもCくらいあるんだ?」



茶髪のセンター分け、不二海ふじかいが、カウンターにもたれかかりタバコをふかしながら星來に向かって微笑みかける。



すると星來は、ようやく打ち解けられたのかと不二海の元へいき、こっそり小声でささやいた。


 

「ほんとはね、ぎりぎりなの。寄せてあげてるの。ナイショ。」



不二海のタバコを吸う手が止まる。一旦停止が長引いたせいか、灰が床に落ちてしまった。てっきり恥ずかしがる星來が見れると思っていたのに。



「……下ネタにも卒なく対応できる星來様、惚れちゃいそ。」


「ありがとう。でも私、クズにしか興味なくって。最悪な女でしょ?」


「最悪な女。大好物でございますよ?」 


「ふふ。不二海くん、いい男。」


「最悪な女に言われちゃあいい男にならざるを得ないねぇ。」



不二海と星來が、ぷかぷかと上がる煙の中で見つめ合う。



彼の唇の端から、小さく漏れる言葉。星來は、じっと不二海の唇の動きを読み取った。




一弥が不二海の吸うタバコを取り上げて、灰皿に力の限り押しつける。星來の手を引くと、メンバーに向かって獰猛な圧で一掃した。



「じゃあ僕は星來を送ってくから。オツカレサマでしたー」


 

「お父さんかよ。」



メンバーが一弥の過保護を鼻で笑う中、華井は諸事情によりトイレに籠もっていた。

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