第106話

「一弥!私、ビリヤードやりたい!」


「え、やり方知ってるの?」


「写真集の撮影でやり方教えてもらったもん。」


「僕のやり方でしかやらせないけど。いいの?」


「なに?一弥のやり方って。」






ビリヤード台に身を乗り出す星來。次のボールまでの距離が遠すぎて、白い手球の狙いがぶれてぶれてしょうがない。



しかしぶれてしまうのは、距離が遠すぎるよりも、星來が一弥に邪魔をされているというのが真の理由だった。 

 


星來の身体を後ろから包み込むように、伸ばした左腕に沿って、右手をつかんで。一弥がキューのつき方を教えるように星來に身体を密着させているのだ。



一弥の言う“一弥のやり方”とは、相手の邪魔をして、勝った方が負けた方の願いを一つだけ叶えるというものだった。



こんな時間に遊ぶことを躊躇っていたのはどこのどいつか。無表情の中にも輝く瞳。番犬が今まさに手のひらを返しそうな状況だ。



「ね、ねえ一弥、ちょっと近すぎるんだけどな。」


「星來の邪魔をしてるからね。僕が勝ったらオフショ画像全部もらう約束だし。」


「……そんなのもらってどうするの?本物の私がここにいるのに。」


「星來だって、僕の映像や画像とってるじゃん。」


「そりゃあ大事な親友のだもん。とっておくわよ。」



一弥がビリヤード台に、上から星來の身体を押しつけるようにしてのしかかる。今では身長178センチとなった一弥。当然160センチの星來には荷が重い。



「ん、重い」


「重いよ僕は」

 


星來はお腹から胸を圧迫されながらも、一気に長いキューで「えいぃっ」と手球をついた。

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