第102話

一弥の気持ちを知りながら、一弥を阻む言葉しか紡げない私。利用している自分がどれだけ最低なのかも分かっている。でも、あなたに謝りはしない。



もし謝ってしまえば、あなたに同情心を抱いてしまう。一弥とは切っても切れない友達。同情心で友達になったわけじゃないもの。



対等な友達でいるべきなの、私たち。




何気なく虚ろな表情で見ていた、暗さを灯す窓。自分のモノトーンが映しだされる。



そこにふと、後ろの席の華井の姿が映って。窓に映る星來に向かって真顔で手を振っている。



星來はおかしくなり、笑って窓に映る華井に手を振り返す。



しかしそれに気付いた一弥が、窓のカーテンを素早く閉めた。



「び、っくりしたー。」



突然の一弥の動きに、星來の心臓がどくどくと跳ねる。しかしそれ以上に一弥は星來の心臓を脅かすのだ。



星來が少しムッとした顔を一弥に見せてから、再びカーテンの閉まる窓の方へと顔を向ける。



すると一弥が星來の耳元に唇を近づけて、ささやいた。



「バーカ。」



星來の肩がぴくりと跳ねる。誰にも聞こえないように、その皮肉はあまりにも近くでささやかれた。普段は甘い一弥からの意地悪。



バーカと言われても言い返すか、または鼻で笑い見下すくらいのメンタルを持つ星來なのに。


 

その時は何も返せなかった。ただ、身体が火照るのみ。

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