第94話

しかし青司は、すぐに朱朗を咎めはしなかった。なぜなら三人兄弟の中で、一番勝ち気な朱朗の、気性の荒い性格を知っていたからだ。



昔から勝負ごとで負ければすぐに悔し泣きをし、地団駄を踏んでいた朱朗。ものを投げ、なだめる母親にもわめき散らす子供だった。



青司とは10個も年齢が離れているにも関わらず、敵わない相手にも朱朗は果敢に挑んできた。



だからきっと、星來を転ばせたのには彼の勝ち気な嫉妬深さが絡んでいるのだろうと踏んでいた。朱朗に口出しすれば、八つ当たりでさらなる星來への被害が及ぶ可能性だってある。



二人は仲のいい、信頼関係のある幼なじみだ。あまり第三者が入りこんでもいけない。近い将来二人で解決し、恋人へと発展するものだと思っていた。



はずなのに。



何がどうしてこうまで拗ねに拗ねたのか。



勝ち気な我が弟は、ただのクズに成り下がっている。



さすがにこれでは、すぐにファッションショーの転ばせを咎めなかった自分にも責任があるのかもしれない。



青司は自分が振られたばかりだというのに、かわいい朱朗と星來のために敵役を演じるのだ。




「ふ、ざけんなよッ」 



朱朗が立ち上がり、青司の胸ぐらをつかみかかる。しかし青司は、その勝手な腕を強く握り返した。



「そうやって、自分の非も認めず逆ギレして。星來ちゃんはプライドのある女優なんだよ。いつお前が見放されるかわかったもんじゃない。」


「う、るせーよッ!」

 


朱朗が反対の手で殴りかかろうとすれば、青司が朱朗の胸を押しやり、ソファへと沈ませた。



久々の兄弟喧嘩だ。



青司は楽しくて仕方がなかった。実来春風に振られて死にそうだったが、いい気分転換になった。



笑うセールスマンのように笑いながら、自室のある3階へと登っていった。

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