第93話

「どうしても抱いてほしい。って頼まれたことがあってね。」


「……俺だって?大概は向こうから頼まれてするんだけど。」


「でも僕は断ったんだよね。それなのにどうしてもって言われて。」


「へえ。随分と執念深い女なのね。」



自分に対して、そんなに執念深い女が今までにいただろうか?



何の後腐れなく一夜限り、もしくはたまに発散し合うセフレ……ああ、そうか。自分は誘われれば一度も断ったことがない。そら執念深い女などいないはずだ。



「執念深くても、その執念を相手にぶつけられないどころか、相手にはファッションショーで転ばされるわ、モデルと手繋ぎデートで惨めな思いさせられるわ。」


「…………」


「あまりにも可哀想でね、」 


「……は。なに、言っちゃってんの……。」



青司がふふふ〜っと酔っぱらう姿をみせ、気が確かじゃない人物を演じ出す。ソファから立ち上がり、朱朗の前で視線を合わせて。



「あのファッションショーで、彼女がどれだけ辛い想いをして泣いていたのか。知りもしないクズはどちら様?」


「…………な、」


「だから僕が美味しく頂いちゃいましたけど?兄貴に寝取られた気分はいかがかな?あろーくん!」



挑発する、青司の不敵な笑い。



青司は星來から相談を受けていた。何度も。なぜ自分が朱朗に転ばされたのか。



パフォーマンスにしたいのであれば、事前に打ち合わせてくれれば良かったのに。朱朗の得体が知れない。そう恐怖すら感じていた星來。

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