第90話
「ただいま〜」
スマホをいじっていた朱朗の手がふと止まる。あれは、青兄の声だ。
青司も一人暮らしをしていた。業界二位を誇る海運会社で、今年4月から本部の課長になったばかり。給料はそれなりにあるため、マンションを借りている。
それなのに今日はなんだというのか?珍しい兄の帰宅に、朱朗は大の字のままリビングのドアへと目を向けた。
「おうクズ朗〜いたのかあ〜!」
「………え?酔ってる?」
「酔ってるかと聞かれればー、そら酔ってますともー。ともまさあおしですっ」
「…………」
普段あまり乱れを見せない青司だが、その日は酷く酔って帰ってきた。
そんな面白い姿をカメラに収めようと、朱朗が青司にカメラを向ける。
青司は中指を立ててから、親指を下にし、「地獄に落ちろ」と言って舌を出す。しかし挑発行為がスマホの画面に映し出されてから3秒後、青司が悲しい泣き顔に替わる。
「こんばんはクズ俳優〜〜、ちょっときーてよ〜」
「こんばんはなんだよスパダリ。」
「振られちゃってさあ〜」
「え?……誰に?」
「好きな子に決まってんじゃん〜〜!!」
青司がソファのひじ置きに、ふてくされるように両腕に顔をうつ伏せる。
朱朗は、どうせキャバのNo.1だかスナックのママだかにいじめられたのだろうと思っていたのだが。
本当に涙が出ているのを見て、まじか。と本気の失恋を感じとった。
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