第83話

「火、つけてよ」


「星來様のおうちが穢れますよ?」


「もう私、穢れてるし。二回目はアイドルにまたがってるもの。」


「…嫉妬しそうな俺の気持ち、今すぐベランダに逃げたがってる」


「嫉妬してるの?」


「しそうなの。」


「私は朱朗が誰と寝ようが嫉妬なんてしたことないのに?」


「大人になりきれない俺は、『お嫌い』?」


「いいえ、『お好き』よ?」



朱朗が星來の口に咥えられたタバコを取り上げる。



糞可愛くないこの生き物、どうしてくれようか。



「タバコより、穢れすぎてる俺のお口を吸ってみない?」


「あら、朱朗の身体は穢れていても、その清らかなお口は私だけのものじゃないの?」


「そーね、星來専用で穢れてますから」


「ひどい『彼氏ー』」


「星來専用『彼氏』ですから。」



朱朗が指で星來の顎を引き寄せる。黒髪なのに、不思議と色素の薄い彼女の唇。幾度となく奪ってきたこの唇は、自分だけのもの。



一弥に二回を奪われた事実は、自分意外の誰にもされていない数多のキスには超えられないはず。淡く切ない純朴色を唇にのせ、朱朗は星來独占肯定感を高める。



「ふ、」



余裕たっぷりで彼のお膝に乗り上げたはずなのに。深夜1時半すぎのキスにこわごわしく応える星來。



朱朗も、朱朗のキスも大好き。



幼なじみの信頼関係があるからこそ、朱朗は私が拒めば襲ってこないはず。第三項はいつだって、一歩手前で守られてきた。



14歳に見た朱朗の顔。今でも忘れられないほど脳裏に焼きついていて。自分を転ばせた朱朗が怖かったけれど、あれからもう7年も経っているのだ。



大丈夫よ、星來。



大人になりきれないプードルでも、幼なじみとしての一線は必ず守ってくれるはず。

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