第82話

タバコを取り、一旦休憩に入りたい気分の朱朗。いやいや今はまだその時じゃない。ここで力加減とさじ加減を間違えてはいけない。



「青兄じゃないと、なにか朱朗の都合が悪いの?」

 

「さあ?星來こそ、一弥相手じゃさぞかし痛い思いをしただろうに。」


「なにそれ馬鹿なの?ふふ、」



星來が自分を見下げる朱朗に、妖艶な笑みを放つ。



「一弥が私に痛いことするわけないじゃない。」


「……だよな。まさか響木が相手なわけ」


「一弥の前戯は全身が溶けそうなほど甘いのよ?」


「…………」


「処女だって、一弥相手なら嫌でもよがるわよ。」


「…………おーん。。」

  


朱朗の気持ちはぐしゃぐしゃにかき乱されていく。俺だって星來相手ならめちゃくちゃ甘やかしますけど?そんなどうしようもないことを思う朱朗の力が、自然とゆるんでいく。



好きな女を抱けずして数多あまたの女を抱く。自分大好き人間はあまりにも不甲斐ない自分を嫌いになりそうだった。



そんな打ちのめされた彼氏役の隙をみて、星來が腕を抜けば。



いまだ妖艶に微笑む彼女役の気持ちが知れず、朱朗が元のソファへとしりぞく。



そして優位になれる術を見つけた星來が、今度はソファへと四つん這いで乗り込んでいく。三人も座れない小さなソファをきしませて。ゆっくりと朱朗の膝に手をかける。



したたかなキティは、朱朗のズボンのポケットからタバコの箱を取り出すと。箱から手のスナップを利かせ器用に一本だけを立たせる。そこから唇ではむようにして一本、咥えてみせた。



ふふ、と脈拍と連動した笑いをこぼしながら。



そのまま朱朗の膝の上にまたがり、自身の身体をあずけていく。

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