第80話
はちみつが足りなかっただろうか。
自分は好きなだけ隙をみつけ、これみよがしに発情しまくっているというのに。本気で怒って泣き叫んでやりたい気分になる星來。
でも私は本当の彼女じゃない。それに自由すぎる朱朗を縛りつけるような発言をすれば、もう二度と朱朗は私に近付いてこないかもしれない。
恋人役を降板されないためには、自分が朱朗よりも大人にならなければならない。もし降板されても、ぎりぎり幼なじみという鎖は一生繋いでおいてほしい。
“好きになった方が負け”とは上手くいったもので。都合のいい女にさえなりたいと思う私は、誰よりも上手く悲劇のヒロインを演じることができるだろう。
二回だなんて。朱朗のそれには非にならないというのに。
対抗心の保ち方が見つからない。悲劇のヒロインにはなれても、恋の駆け引きの仕方がわからない。
自分の悔し顔がはちみつを浮かべたカップの中でうごめく。
そんな彼女役の気も知らない朱朗は、不可侵条約第一項、“浮気の事実を突きつめない”にも平気で踏み込んでいくから勝手すぎるのだ。
「……響木とさ、したの?」
「…………いきなりなに」
「響木一弥と、えっちしたのかって。」
「……はあ?……さあね。」
面倒くさそうに答える星來。互いにティーカップをテーブルに置けば、朱朗が4秒ほどの沈黙を保ち、さらに踏み込んでいく。
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