第78話

だから本題を切り出し、一弥との“肌見せ案件”のことを聞かなければならない。



胸だけを動かし、息がもれぬよう深呼吸をする朱朗。ベルガモットティーの湯気が微かにゆれた。

 


「せーら、あのさ、」


「ん、なに。」



キッチンからガラス製ポットを手にし、ビーズクッションに座る星來。少しばかりの警戒心のせいか、ソファに座る朱朗との間に距離を生じさせた。



「……写真集、だすの?」


「うん。」


「なにその軽量カップでも計れないほどの軽い返事」 


「重い返事ってなに」


「『ご主人様の許可も貰わず勝手に写真集出すことになってしまい申し訳ございませんご主人様〜』」 


「頭悪そうな返事ね」 


 

朱朗が聞きたかった本題はそこじゃないのだが。とりあえず入口は慎重に進んでいきたい成人を過ぎたばかりの21歳。



「スケジュールに写真集の撮影なんて入ってませんでしたけど〜?」


「マネージャーにオフレコでって言われたのよ。写真集は出版社と揉めてバラシになりやすいから。」


「オフレコって言ったらスケジュールなんて全部オフレコじゃね?」


「そりゃそーよ。そもそも朱朗とは事務所違うんだから。いってみれば競合なのよ?」



朱朗はファインロードプロダクション、星來はミトエージェンシーに所属している。



小さい頃から二人一緒の現場を事前に把握したいがためになされてきたこのスケジュール共有。朱朗っての希望もあるが、そもそも間違っているのだ。事務所からすればスパイ行為に当たるだろう。

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