第76話

「おすわり!野生のプードル!」

「……誰にも飼われないキティが悪い。」



朱朗が星來のうなじにキスを落として、後ろからぎゅっと抱きしめる。



「っ、」

「ここ、ぞくっとした?」

「し、らないっ……」



ぬるい唇の感触。うなじなんて自分でも見たことのないような未開の地。朱朗に髪をかき分け見られて唇をつけられて。羞恥しか感じられない星來。



もうとっくにその黒髪を乾かした星來であるが、お風呂上がりの白い煙を舞い上がらせているかのような肌で。たった今蒸し上がったばかりの二の腕をしている。



火照る素肌はほんのり色づき、シャンプーの香りと星來が本来持つ花の香りに朱朗は目眩を覚えた。



「(待てができる理由、どこよ。)」



朱朗が星來の首筋に唇を這わせていく。その度に星來の身体が震えるため、余計に煽られるばかりの朱朗。



星來を振り向かせ、その唇にキスをして、恋人同士を勝手きままに演じ始める。



「んっ、ま、まって、」

「いつもの強気な星來様、どこよ。」



余裕のなさをひた隠しにするようなキス。星來の唇を何度かはむようにして離し、そこから一気にふかいキスへと持っていく。



よこしまな気持ちを自制しようとする無駄な手は、星來の腰から今にもシャツを捲り上げそうなほどにさすっていく。 



怖い気持ちと心地よさが交差する中で、星來はプードルをなかなか突き放せずにいた。それをくみ取るかのように朱朗の手も核心には触れてこない。

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