第74話

いても立ってもいられず、朱朗は収録終わりに星來宅へと直行した。クズの行動力は規格外なのだ。



都内二等地にある低層ハイグレードマンション。歩いて10分ほどの距離には公園とショッピングモールが並び、ストーカーなどの被害を危惧する両親が、あまり静かすぎる場所でもよくないと選んだマンションだ。



星來の実家は県外にあるため、撮影や大学に通うために高校卒業後からは一人暮らしをしていた。





夕方から始まった収録。それが終われば当然深夜になるわけで。朱朗は迷惑顧みず、星來の住む24時間常駐するコンシェルジュ付きのマンションに顔を出した。



目深く帽子を被り、サングラスとマスクをして。怪しさ満点ではあるが、星來の芸能事情を知るコンシェルジュは、朱朗の姿を見てすぐに理解した。



このクズ俳優、夜這いしにきたなと。



もちろんすぐには通さず、コンシェルジュの正瑞しょうずいさんは風音星來に確認の連絡を入れる。



『そのクズはなぜ事前に直接連絡をくれなかったのかしら。』


「なんでも直接来たほうが家に入れてもらい安いと朋政様は思われたそうで。追い返します?」


『……多分、追い返しても朝までそこで待つって言うわ。』


「では迷惑なので冷凍用の宅配ボックスにでも突っ込んでおきますね?」


『ええ、そうして頂戴。』



内線用簡易フォンを通じて、星來とコンシェルジュのクズ対策が会議されるも、どうしても星來に会いたい朱朗は冷静に対処しようと決めた。



「おいそこのコンシェルジュ、なかなかやるな。」

「お褒めに預かり光栄です。」



朱朗はコンシェルジュの正瑞さんに、チップと呼ばれる金一封を進呈した。すると正瑞は胸ポケットにチップをしまい、自動ドアの電源をオンにする。



『覚えてなさい、正瑞!』

「星來様に怒りを向けられるのも幸甚の至りです。」

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