第73話

青兄が母から強いられた芸能の道を外れた時、青兄は反抗心の塊でできた子供なのだと思っていた。



でも今なら分かる。その反抗心は、自分の確固たる信念に基づくものであり、常に自分に正直に生きている証拠なのだと。



反抗心は自立した大人になるための予兆であり、それを実行してきた青兄は実際今、確立された大人だ。クズだとしても自分の気持ちを第一に優先して生きてきている。



同じ朋政でも、なんとなく流れに身を任せてきた自分とは全く違う人間なのだ。



でも。もし一弥が星來を抱いていたのだとしたら、話は違ってくる。



響木一弥。同い年で同じように小さい頃から事務所に入れられてきても、自分の方が先に売れている。対等どころか下に見てきた存在に星來が身体を許していたのだとしたら。





ロケ現場はすでに星空が目立つ夜となっていた。朱朗はスタッフがジョッキに注ぐビールを見て、酒の力に頼りたい気持ちでいっぱいになった。



そしてメンバーたちは、出来上がった手羽元のおつまみを前にビールジョッキを持ち、乾杯の音頭をとる。



「「かんぱーい!」」



編集後には提供のテロップを挟み、最後に本日のゲストである朱朗の一言が求められるのだが。




『丸くなるな、とっとと奪いにいけ。』 


  

何を奪いにいくというのか。



「朱朗くん、それを言うなら『丸くなるな、クズになれ。』でしょ?」


「華井くん、それを言うなら『丸くなるな、芸能人らしく華を持て。』だよ。」



顔を引きつらせる朱朗と華井。肩を組んで“引き”の映像がドローンにより撮影された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る