第63話

「なんか、せいらちゃんの一途な話聞いてたら元気出てきた!ありがとうせいらちゃん。」


「……いえ、こちらこそ。」



実来が少し困ったような笑顔を見せてから、窓の外を見てため息をつく。



「(この人、元気じゃなかったのかな。)」



星來はふとそう思った。

 




青司がテレビ局の近くに路駐する。星來が実来に挨拶をして車を降りると、青司も一旦車を降りた。



「星來、突然知らない人いてごめんね。」



青司が星來に近付いて、車内の実来に聞こえないよう小声で言った。



「ほんと、私以外の女乗せるなんて最悪。」


「悪いけど、彼女は別だから。」


「……え?…まさか青兄、あの地味な人が、好きなの?」


「地味?」


「青兄は業界の中でもかっこいいのに。あの人は、…まあ一般人としては可愛いのかもしんないけど」


「生意気で根性たくましくて、地味からは程遠い女だよ。」



青司が笑いながら星來の頭を撫でて、星來は子供扱いされてると思い、その手を払う。自分が地味な実来には敵わない?信じられなかった。



「……なんか、むかつく。」


「星來は女友達いないじゃん?少しでも女性と会話できればと思ってさ。」


「いるもん!いるけど、そこまで話せる機会があんまりないだけで、」


「普通の学生としての経験は必要だよ。」


「保護者ヅラしないで。」


「青兄ヅラしてるだけ。」



青司が再び星來の頭を撫でて、星來はふてくされながらも素直に撫でられることにした。


 

自分が一般人のような経験をしていないのはよく分かっていた。



星來は自分の意思で芸能界に入ったわけではない。だから少しでも一般人としての経験に触れさせようとしてくれる青司のことが大好きで。14歳、ファッションショーで自分を慰めてくれたあの日から本当の兄のように慕っていた。

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