第60話
なぜか青司の車には、青司の後輩である女性が同乗していた。
図々しくも助手席に座っており、星來が来たら一緒に後部座席に座るというあざとさ。しかもこの女、なぜか芸能人である星來のことを知らないらしい。
青司には何も聞かされないまま、とりあえず親戚だということで話を合わせている。
「今日はたまたま、ちょっと農政局って場所に用事あってね。実来と午後から行ってたんだよ。」
「へー……。」
「あ、そうそう。星來の好きな抹茶ラテ買っておいたよ。ちゃんと砂糖抜きにした。」
「ふーん。どうも。」
青司に抹茶ラテを手渡されて、しぶしぶ受け取る星來。
芸能人である自分を、他の人間に会わせるのはどうかと思うし、それ以前に他の女が同乗していることが気に食わない。
「実来、先に星來を送り届けてから会社帰ってい?」
「もちろんです。というか、私地下鉄で帰りますよ?」
「いやいいよ。もう少し実来と話したいし。」
「(いやさっさとこの人降ろしてよ。テレビ局に行くのがばれるじゃない。)」
ただでさえ朱朗のことでイライラしているというのに、青司は一体何を考えているのか。
「星來、実来に恋愛相談でもしてみたら?」
「……え?」
「ほら、今好きな人がいるんでしょ?」
「な、なに言ってるの青兄!」
「女性同士のが話しやすいでしょ」
今会ったばかりの、しかも一般人に芸能人が恋愛相談をするなんてどうかしている。
でも隣に座る彼女は、「いやいやぁ、私が恋愛相談なんて無理ですよ〜」と満更でもなさそうな顔で言うもんだから、本気で自分が芸能人だと気付いていないのかとあきれてしまった星來。名前まで出しているのにそれはそれでへこむ。
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