第58話

朱朗が咥えタバコのまま、星來を強く抱きしめる。



自分から話を振っておきながら、星來の処女とセカンドを奪った青司の名前を出されて、どうしようもなく星來を抱き潰したい衝動に駆られる。



でもこのまま無理矢理抱いてしまえば、星來は本気で自分に拒否反応をしめすようになるかもしれない。



しかも、青司ほどの包容力が自分に備わっているわけでもない。



ただ思いつく限りに、星來が欲しい物を与えるばかりで。男としての余裕も寛容さもない。それが実際、“浮気”として反動が表れているくらいなのだから。



こうして抱きたい気持ちを平気で口にして、それを否定されれば他の女で適当に埋めて。クズでいなければまだ自我が保てない青二才なのだ。



朱朗は、自分をなじるように星來を両腕から離す。天井を仰いで吐き出した煙には、行き場のない深いため息が混じっていた。



簡易キッチンに行き、灰皿にタバコを押し潰す。



すると後ろから、ふわりと白い腕が朱朗を包んだ。



「…あろー。」


「……なに、せーら。」


「……ううん、なんでもない。」


「(かわいいにもほどがある)」 


  

朱朗が星來の手をつかみながら、再び前を向いて星來をすっぽり包む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る