第57話

不可侵条約第二項、他の異性とキスをしてはいけない。要約すれば、キスは二人だけのもの。



17歳の『淡色と常套句』のヤラセ撮影で朱朗が星來にしたキス。あれは互いにファーストキスであった。



ファーストからセカンドへ、そしてそのままサードへ。たまたま3回のキスが、お互いそれ以外の唇にはされなかった。



それならばこの先も、キスは二人だけのものにしようと約束を交わしていた朱朗と星來。



それなのに。




「ねえ、俺もう無理なんだけど。」


「なにが?」


「抱きたくてしゃーないっす」


「いやよ、朱朗は性病保持者かもしれないし」


「んなこと言ったら星來だって」


「私はまだ二回しかしてない。」


「……回数関係なくね?」


「ある!確率的な問題。」


 

不可侵条約第三項、セックスはしない。



キスとふかいキスはするのに、身体だけは許されない。本来ふかいキスまでくれば、それはもうセックス候補になっているようなものなのに。



星來は断固として朱朗に身体をゆだねることはなかった。



つまりこの第三項に関しては、星來自身の問題であった。



「…で?今日は処女を奪った相手が迎えに来ると?」


「ええ。そうよ?」


「16時入りなのに?青兄仕事じゃん。」


「今日は午後休なんだって。」


「へえ?それって、わざわざ星來のために午後休取ったってこと?」


「青兄が私のために仕事休むわけないことくらい、弟が一番よく分かってるんじゃない?」

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