第55話

「せーら、傷ついてるの?」


「え?なに?」


「軽率に傷ついてるの?ねえ、」


「え?聞こえないわ。」


「なんで?それってなに?俺が?女二人とえっちしてたから?」

 

「ごめん、もう一度ゆっくり言ってくれるー?」 



朱朗が星來に近付いて、華奢な両肩に手を置く。その白い耳元に唇を近付けて、星來を茶化すような声で言った。



「俺が浮気したこと咎めないの?」


「浮気?え?うわついたの?気持ちが?」

 

「いんや?気持ちはうわついてないよ?」


「なら浮気したことにはならないわね。」


「そーね。でも星來は、完全に笑えない王子に気持ちがうわついてたよね。」


「証拠がないけど?だって私、」



星來が朱朗の頬に、ちゅっとキスをする。



「一弥とはキスしたことないもん。」



朱朗が不意を奪われて、星來の瞳に魅入られる。星來も、朱朗のトイプードルみたいなまあるい瞳に愛しさを感じた。



「こんなクズを煽ったのはどちら様?」


「ふふ。」 



朱朗が星來の手を引いて、国際交流会館の方へと連れて行く。そこは海外からの留学生が寮として使う場所だが、朱朗は寮として使われていない部屋があるのをよく知っていた。



「Hi Aro!」

「Hi.」



露出が当たり前の女子留学生に手を振られ、いつもならクズ行為をしに行くところだが、今日はそれどころではなかった。



一番奥の部屋へと星來を連れ込み、ドアを後ろ手に鍵をかける。



そこは昔使っていた留学生により合鍵が作られ、代々引き継がれている開放された憩いの場・・・・だった。 


 

こんな場所に星來を連れてくるのはどうかとも思ったが、朱朗は待てができないトイプードルだった。

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