第54話

さすがに21歳になった今、自分のために株をポチったり、車まで自分好みにしてくれている事実から、嫌われてはいないのだということは理解していた。



“縁を切ればぎりぎりで生かす”。それは幼なじみという長年のくされ縁であり、14年にも渡る仕事の同僚であるが故の信頼関係からくる言葉。おそらく家族に近い。



ヤラセから始まった恋人ごっこの延長戦は、きっと本物の恋人には当たり前のように敵わない。星來はそれ以上にも以下にもなれないことも理解していた。



なんせ朱朗は17歳のリカちゃんとの浮気から、少なくとも3回は女性芸能人とのスキャンダルを撮られている。



それに大学に入ってからというもの、あの朱朗の容姿に周りが放っておくはずもなく。そのゆるゆるな体裁で抱いた女は数知れず。



星來は朱朗の“恋人役”になれていることに満足していた。いや、満足しようとしていた。本物の恋人として認めてしまえば、浮気しかしない彼氏に毎日辛い思いをしなければならない。



もし本当の恋人のように「浮気しないで!」と朱朗を縛ろうとしてしまえば、恋人役を降板されかねないのだ。




「…ああ、そのくだらない男が星來の背後に現れたよ。」

「え?」


 


「心霊みたいに言わないでくれる?笑えない王子。」



星來の後ろには、いつの間にか朱朗がいた。



笑えない王子はいつ見ても余裕そうなので、朱朗も余裕のある冷めた笑いで対抗する。



そんな朱朗を面倒くさそうに見た一弥は、肩でため息をついて星來に小さく笑いかけた。あの笑えなくて笑わない王子が。



「またね星來。と、またね。星來を軽率に傷つけるクズ。」



朱朗には当然鋭い目つきを投げかけた一弥。そう別れの挨拶をして、迎えの車に乗り込む。



星來が笑顔で手を振り見送れば。



「またね。星來を傷つけていいのは俺だけなんだけどね。」



朱朗の声が、星來だけの耳に残る。



自分を傷つけていると理解している朱朗に、星來は彼の胸を叩いて反抗したい気持ちでいっぱいだった。



でも自分にはプライドがある。女優として、一人の女として。星來は今日も惨めな想いにそっと蓋をする。

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