第53話

午前中の人間文化論の授業が終わり、一弥と星來は国際交流会館のある西門から外へと出た。今から一弥はロケ現場に向かわなければならない。



「PV撮影頑張ってね。」


「ねえ、星來にミュージックビデオの出演依頼出したって華井はないが言ってたんだけど、ほんとなの?」


「ああ、うん。マネージャーから聞いた。」


「断った?」


「うん、一弥と噂も立ちかねないから。というかRainLADYは私と共演NGのはずよね?出演依頼が来た時はびっくりしたよ。」


「どうせ華井の魂胆でしょ。あいつ、昔から星來の大ファンだから。」


「ふふ、ありがたいことね。華井君によろしく。」



星來が一弥に笑いかけて。一弥が星來の頬をむにっとつまむ。


 

「でも、忘れないでね。」


「ひゃにが?」



一弥が星來の髪をすくい上げて、そっとその耳にささやく。



笑わない王子はRainLADYの中でも一番の歌唱力を持つ。だからその透き通るような声でささやかれれば、堕ちない女はいない。



「僕はファンじゃなく、単に星來が好きってだけだから。」 

 

「軽率に好きでいてくれて嬉しい。」


「嫌味じゃないことくらい分かってよ星來。」


「分かってるなら私のくだらない恋心も分かって。」


「分かってるからこうして落としにかかってるんだよ。」



堕ちない女はいないのだが、星來はアイドルよりもクズに恋をしていた。14歳のあの日から。

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