第50話

それなのに“彼氏”の朱朗はクズ俳優で、そのクズと不可解な不可侵条約を三項締結している星來。



今“彼氏”が“浮気”の真っ最中だとしても、星來は気高さを忘れない。暗黙のルールだと云わんばかりに、浮気の事実は突き詰めない。それが一つ目の不可侵条約。



しかしその不可侵条約が一層クズ男製造機を稼働させているのだから、拗ねらせ方が半端なかった。


 

『あー、せーら。好き。もっかい今の、」


「あと5秒で切るわね?5、」


『いまの、なんか飲んだやつ。コクリってやつちょーだい』


「4、3、」 


『せーらに咥えさせてるとこ想像すればいけそ―――――』




「―――――貸して」



一弥が星來の耳からスマホを取り上げて、通話ボタンをタップして切った。2秒前に。



「星來、こいつのアドレスとアカウントと番号消していい?」


「いいけどまたすぐに登録されるのがオチ」 


「……スマホまで見せてるの?」


「勝手に盗まれるの。」


「いい加減縁切りなよ。」


「切ったら脈切るって。」


「メンヘラは勝手に死なせておけば?」


「違うの。私の脈を切ってぎりぎりの状態で生かすって。」


「……猟奇的でクズって?そんな男と同じ芸能界にいるのが恥ずい。」


「朱朗が恥ずかしめてごめん。」



なんで星來が朱朗のことで謝るのか。理解できないまま、一弥が星來にスマホを返す。



口直しにと一弥が再びペットボトルの軟水を飲めば、一斉に周りの女子が一弥に熱い視線を贈る。



『クソかっけー』

『てぇてぇなおい』



てぇてぇ視線を浴び、周りの女子に手を振られても一弥は軽く会釈するのみ。その塩加減がまた女子たちの推し欲を活性化させるのだ。



当然学内では、星來と一弥が付き合っている噂は流れているが、それをSNSで拡散しようとする輩は少ない。



圧倒的まばゆさを放つ学内のビッグカップルに、そっとしておこうという心遣いはレベルの高い名門校ならではなのか。



それでも二人の交際が呟かれた日には、RainLADYが所属するサニーファクトエンターテインメントの力が作用していたとされている。

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