第48話

ふふっと笑いを互いにこぼし合う朱朗と星來。いや、実際電話の向こうでは馬鹿にするように鼻で笑っている。



彼らは今でも偽りの恋人を演じていた。偽りの恋人など、時効によりすでに消滅されているはずなのだが……。




『あー…ちくしょ、全然いけねー……』



スマホから聞こえてくるドブネズミのクズな声。はっ、はっ、と息を上げながら。そして背景から微かに聞こえる女二人の荒い息づかい。



『せーらぁ、俺に愛のささやきくださいな』



星來は腐り切っている朱朗に、優しい声で応対する。頭の中に小鳥のさえずりを響かせながら。



「『お客様のおけかになった電話番号は、現在使われていないか、もしくは生理的拒否により嘔吐をもよおしている最中です』」

  

『声優もやってんだし、6人分の声真似くらいお安い御用じゃございませんことラブエンジェル?』


「おふざけにならいで下さる糞ドブネズミ」


『それならばアガット、パールネックレスでいかがですか愛する糞かわエンジェル?』


「ティファニーのダイヤモンドネックレスなら考えなくもなくてよ地獄に落ちろ愛しのクズネズミ」 



星來の悪態を聞いた一弥が、慌てて星來の口に手を当てる。



周りの視線が集中する中、星來はにこやかに愛想を振りまいた。



「星來、眉間にしわ寄ってる。」


「え?」


「かわいいんだから勿体ない」


「一弥、やだ恥ずかし」


「見せつけてやればいいよ」


「あら素敵な番犬さん」


「光栄です僕の星來様」



一弥が星來の黒髪を撫でて、無表情ながらに星來に甘い言葉を贈る。



今やアイドル界に君臨するRainLADYの笑わない王子は、星來の番犬となっていた。

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