第40話

二人ともカメラマンや他のスタッフ、マネージャーに見られていることなど忘れていた。



朱朗の顔が、星來の黒い髪を押し潰し、首筋に吸いつくように強く抱きしめる。



いっそ、このまま想いを伝えしまおうか。演技でもなんでもいいから。



今の深いキスは、自分というライバルへの嫌がらせだとしても、それはそれで気持ちの整理ができるというものなのかもしれない。



星來の淡い恋心を乗せるように、彼の抱擁を受け入れようと手を伸ばす。



いや伸ばそうとした、のだが。




―つ―――――――


 

びくっと身体を強張らせた星來。背中に朱朗の指が這わされる。真ん中の背筋を渡る指のわずかな温度が、星來の身体を熱くさせた。



「……星來って。ブラ、前ホックのやつ着けてる?」



さーーーーーーーーーーと砂のように色々な想いが夜風に乗って消えていく。



星來は無の境地に入った。



17歳男子というものは、こうも頭の中身が性で溢れ返っているのだろうか。 



《いつか星來がヌード写真集出す時がきたら教えて!俺がカメラマンするから(⁠ ⁠◜⁠‿⁠◝⁠ ⁠)⁠》


 

そんな朱朗からのメッセージが届いたのは、まだ3日前のことだった。朗らかな顔文字が全然メッセージについていけていない。



星來は、まだ朱朗に抱きしめられている状況で「ふふ」と笑いを溢した。



「このブラ、一弥が選んでくれたの。」


「………え、」


「デートした時にね、前ホックのがデザイン可愛いねって。」


「………へ、え」


「それに、前ホックのが谷間ができやすいじゃない?」

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