第35話

よく考えてみれば、あのファッションショーで、もし朱朗が星來を転ばせようなんて思わなければデートのようなランウェイは生まれなかったのだ。



二人だからこそ為せた業。監督の見る目はまさに正しい。

  


「子役時代から仕事を共にしてきた君たちなら、世間からの批判も少ないだろうし、ね。」



いやあったとしても、それが起爆剤になり得る場合もあるのだから、ヤラセとは芸能界の必須アイテムでしかない。



そこで立っていた朱朗の男性マネージャーが、メガネを上げて腰を落とすと、気まずそうに二人に向けて言った。



「……で、さすがに未成年の二人に交際宣言させるわけにもいかないから、あくまでスキャンダルで匂わせるスタイルでいきたいんだけど……」


「……匂わせ?」


「つまり、その。二人がプライベートで抱き合ってる写真をスクープ写真として撮らせてほしいと、そういうことなんだけど……。」



星來はドクリと心臓が跳ねた。



ヤラセなんて芸能界ではよくあることだけど、それがまさか朱朗との熱愛報道だなんて。朱朗からしたらきっといい話ではないだろう。



心音ちゃんにしろ、リカちゃんにしろ、彼女たちからしたら朱朗の彼女候補なわけで、朱朗はそれをいいように利用してこれからも遊びたいはず。



自分が“彼女”になってしまえば、そんなことも出来なくなるのだから。



星來は断ろうと思った。




でもベンチに座るクズ二軍の朱朗は、さすが。言うことが違う。



「いいですよ。やりますよ。つまり星來とエロいことしてる写真を撮らせて欲しいってことっすよね?」


「……いや、は?そこまでは言ってないんだけど…?」 



監督が怪訝な顔つきで朱朗を見れば、マネージャーが慌てて持っていた資料で朱朗の頭を叩いた。



「痛いっす」


「すみません監督!こいつちょっと今多感な時期でして!」


「……いや、うん。さすがに未成年にエロいことはさせらんないから。」

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