第34話

「失礼しまーす!」

「待たせてごめんね!朱朗君、星來ちゃん!」

「すみません、失礼いたします!」



スタッフに監督にマネージャー、それに見知らぬ顔ぶれの大人が二人の控室を訪れた。



朱朗も星來もただ事ではない雰囲気をすぐに悟り、姿勢を正すのだから仕事に対してはストイックなのだ。



「時間が押してもなんだから、率直に言わせてもらうね。」



向かい側に座る監督が、神妙な面持ちで二人を見やる。

 


「今回の『淡色と常套句』、人気恋愛漫画の実写化ではあるんだけど、起爆剤として二人が交際しているていで話題性を出したいんだよ。」


「「……え」」



話題性?



なんともシビアな話だ。特にまだ17歳の二人にとっては。



二人は一瞬顔を見合わせたが、さっきまでの馬鹿みたいなやり取りを思い出して恥ずかしくなり、すぐに顔を反らした。



「今や3次元よりも2次元が敬われる時代でしょ?それに恋愛に特化した作品て、世間は求めてないっていうか。」

  

「はあ……。」


「復讐とかサスペンスとか。もっと強い刺激が愛される時代じゃない。」

 


監督自身がなぜそんなことをいうのか。それならばこの恋愛映画を撮る意味など全くなくなってしまうのではないのか。



「今回恋愛映画を撮ろうと思ったのは、君たちのファッションショーをたまたまテレビでみたからなんだよ。」


「…私たちの?」


「うん、二人のランウェイ。」



星來にとっては嫌な思い出でしかないのに。隣の朱朗を見れば、なぜか細目で口角をあげる得意顔で。



星來はその顔を、自分に対するしたたかな悪意のある顔だと思い、辛くなってうつむいた。




つまり監督は、朱朗と星來であれば恋愛映画が成り立つし、逆に二人でなければ恋愛映画である必要がないと言いたいのだ。



ただ14歳からすでに3年も経っているため、起爆剤として交際している雰囲気を匂わせてほしいと。



いい意味でも悪い意味でも話題性を持たせて劇場動員数を増やしてほしいと、そういうことらしい。

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