第31話

今までを振り返れば、例えば控室で一緒にいても必ず向かい合わせで座っていたのに。なぜかあのファッションショーを終えて以来、朱朗は星來の隣に座るようになっていた。



その度にちょっかいを出してくるため、星來は朱朗が嫌がらせをしてくるのだと思っていた。



朱朗は自分の想いがうまく伝えられず、なんというかメンヘラ?いや、星來にちょっかいを出したり嫉妬を煽ろうとする、面倒なかまってちゃんになっていた。



しかも多感な時期。セクハラが還暦のおっさんよりも濃い。



「おやじみたいな高校生やめて。心の加齢臭すごい」


「俺香水買ったんだよー、ディオールのやつ」


「ディオールさんも大変ね。加齢臭カバーしなきゃなんないんだから」


「星來たんはいい匂いだね。舐めてい?」


「待て。」


「頭ではわかってるのに心と身体がゆーこときかないんだよ!」


「待てない男は海にどぼん、からの骨となり水揚げ。」


「なにそれ2時間ドラマみたい」


「いつか二人でサスペンス劇場出たら崖からつき落としてやる。」


「落ちる時は一緒だよ?」



朱朗が星來に近付き、デコルテを舐めようとする。星來はテーブルにあった満タンのペットボトルで朱朗の頭を思い切りはたいた。



「痛いっす」


「この匂いね、ディオールのベビーパウダーなの」


「え?まじ?ブランド一緒とかさすが長い付き合いだけあるくね?」


「青兄がくれたの。」


「……は?」


「青兄がね、私に合う香りだからってくれたの」


「……へー」 


「さすが長い付き合いだけある兄弟。ふふ。」



星來がゆるりと口角を上げる中、朱朗が顔をひきつらせて、空になりかけのペットボトルを片手で握りしめた。

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