第29話

「……はな、して」


「…裸足じゃ危ない。」


「わたしなんて、裸足でじゅうぶんだよ……」


「星來ちゃんなんて、僕が抱っこしちゃうもんね」


「えっ、ちょッ」



周りが二人を見ている中、青司が平然と星來を抱き上げる。お姫様抱っこなんかじゃなく、親が子供を抱っこするように。



「や、やだ、はずかしい!」


「僕は恥ずかしくないよ?」



まだ頬には涙が流れているし、メイクも取れている上裸足の自分を持ち上げられて。どうしていいか分からずただ顔を染める星來。



「恥ずかしいなら青兄あおにいにぎゅってして」


「え……?」

 

「ぎゅってして、顔を隠せばよいよ」



そう青司に諭されて、とにかく今は彼の言う通り、ぎゅっと首周りに抱きつく。



もうなんでもよかった。自分なんて笑いものにされようがなんだろうが、どうにでもなればいいと思った。



青司が悠然と星來を抱っこして歩いていくと、真っ暗な防災倉庫と書かれたドアを開ける。



ヘルメットや消火栓などが棚に並ぶ暗い部屋で、ドアを背にして青司があぐらをかくように座った。星來を抱っこしたまま。



「ごめ…、ごめなさ…青にい……」 



星來が、青司に教えてもらったターンを出来ずに謝ると、青司が星來の頭を撫でた。



「僕はモデルの先生じゃない。ただの青兄だよ。」 


「でも、せっかく教えてもらったのに…」

 

「あの状況で事故だと思わせなかった星來は、超かっこいいよね」


「…かっこよくない」


「今弱みを見せてる星來は、超絶かわいいよね」


「かわいく、ない…」



さっきまで“星來ちゃん”と呼んでいたのに。急に呼び捨てになった青司に、少しだけ距離が縮まった気がした。



それから星來はまた悲しくなって泣き続け、青司は何も言わず、星來が泣き止むまで抱っこした。





「足、めっちゃしびれた」


「ごめん青にい、あとちょっとだけ。」

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