第27話
しかし星來は、恋する一人の乙女である前に一人の立派な女優だった。
一瞬うつむき、気持ちを整えると。
つまづいて困ったように眉を下げるプリンセスを演じる。
そして突如現れた彼に驚きを見せつつも、こわごわしく手を取るとはっきりと紡いだ。
「ありがとう。」
気品を漂わせるかのようにワンピースのスカート部をさっと払い、深呼吸をしながら朱朗に笑顔を見せた。
どっと、会場が地鳴りを響かせるように歓声が沸き起こる。
星來の手を、朱朗が掌でしっかりつかみ、そのままトップまで歩いていく。朱朗はもう星來が転ばないようにと支えた。
二人は事故を、パフォーマンスとして見せたのだ。
自分に恥をかかせるために作られた事故。
星來は初めての恋と失恋、そしてカメラの前での失態を経験し、感情がぐちゃぐちゃに混ざって泣き叫びたい気持ちでいっぱいだった。
朱朗は勝ち誇っていた。
この会場に観に来ている青司に、舞台袖でフィナーレを待ち構える亜泉に。そして、初めて会った響木一弥という存在に。
その誰でもない。自分が星來を救ったのだ。
自分に向けられた勝ち組の歓声をひしひしと感じる中、朱朗は思った。これは星來に対する嫌な感情なんかではない。
兄や響木一弥に対する、ただの嫉妬なのだと。
ハンドクリームを使い、星來をわざと転ばせたにも関わらず、朱朗は罪悪感よりも気持ちを高鳴らせた。
自分は星來を好きなのだと。今、はっきりと確信できた。
冗談半分とはいえ、わざわざ婚約届を持ってくる7歳がどこにいるというのか。12歳の時、嫌いと言われた時に感じた痛みはどれほどのものだったのか。
七光りで誤魔化してきた言葉は、七夕という天の神様がとりつく前では七光りで誤魔化すことができなかった。
『星來がほしい。』
あれこそ神様に対し、本当の自分の気持ちに嘘をつけなかった証拠だ。
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