第19話

しかし朱朗が「まって、」と星來の肩を持つ。



振りかえった星來の長い黒髪がなびいて。



彼女の紙パックを持つ手首をつかみ、自分の口元に持っていく朱朗。




「もったいないおばけが出るよ」



星來の手にあるそこから、ちゅうっとバナナオレを吸い上げた。ストローを透してみえる、バナナを混ぜた乳白色の液体が、朱朗の口へと運ばれていく。



その姿が、まだ14歳の星來にあでやかに映る。



星來は青司にも感じなかった熱に心拍数を上げて。胸の奥にじゅんとしたを灯らせた。




「……あろう、」


「ん?」


「口、くちびるに、ついてる。」


「どこ?」



マロンクリーム色の髪の毛。くるんと毛先が丸まったトイプードルのような。まだまだあどけないだらけの14歳男の子。



でもクラスのどの男子とも違う、朱朗にしかない、ゆるくてまあるい瞳に、目元のほくろ。バナナオレの乳白色が薄くはじいた唇は、艶をつくっている。



朱朗が自身の指で唇をぬぐうも。



「そっち、ちがう。」


「どこ?」


「…ここだよ」



星來は、緊張をひた隠しにする円滑力をたずさえて、朱朗の唇を指でふいた。



「……あ、りがとう」


「い、いえ。どうもいたまして」



演技中でも噛んだことのない星來。



初めて感じる熱にわけが分からなくなり、ただ苦しくなって。うつむいて自分の表情がばれないようにする。



それはまた朱朗も同じで。真っ赤になる星來を見て、7歳の自分なら簡単に“かわいいね”と言えたのに。



思春期って、思ったことをそのまま口にできないからもどかしくて苦しい。



「(なんでも思春期のせいにしておこう。)」

「(なんでも思春期のせいにするのはよくないわ。)」



そう思った二人。



二人は親のお迎えが来るまで、しばし無言となった。



星來はお茶とバナナオレが混じった、青くて苦い風味を噛みしめた。14歳。

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