第12話

「わ、わかった。言いには行かないから。離して。」


「…おん?星來、なんか赤いよ?大丈夫?」


「大丈夫だって。」


「ほんと?大丈夫ならこれにサインしてよ。」



話の流れを川の流れのように流した朱朗。



ズボンのポケットから何枚にも折りたたまれた紙を取り出し、シワシワのそれを広げれば。あの時の婚姻届がお目見えする。



「ね?いいでしょ?俺三男だし、風音家の養子でもいいからさ。」

 


ほくろをつけた綺麗な二重が、うるうると星來の目元にせがんでくる。



しかし星來は成長の早い女の子。そんな理由で結婚を申し込まれることは、女の意に反するものだと理解しており、その婚姻届を真っ二つに破った。



「あああ〜なんてことを…!」

 

「嫌い。」


「え?なにが?!」


「朱朗が嫌い!さっさと出てけ!」


「うわあああああん」



朱朗はその場で泣き崩れた。



星來は何事かとしゃがむ朱朗に目を見開き、そして若干ひいた。12歳なりにちゃんと違和感を感じていたからご両親も安心でしょう。



「ひどいひどいひどいよ星來!ちゃん!俺が?何したっていうのさ!俺は真面目に養子でいいって言ってるのに!」


「そういうところだよ!そういうところが嫌いだっていって」


「いやだいやだいやだよ俺は嫌だよ!俺を嫌いな星來なんていや……あああ、やっぱり朋政朱朗はどんな星來でも嫌いにはなれない!」


「そ、そうなの?」


「だって青兄が言ってたんだ!星來ちゃんほど顔面がんめんいい女はこの先絶対に出ないから嫌われないようにしとけよ!って!」


「………」

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