〇二.Crazy 12−14

第11話

12歳。



12歳の朱朗は必死だった。



誤解を解くのに。



「違うんだよ。あの時の結婚の話はお兄に言われたんだって。」


「え?」



たまたま同じ番組で共演する機会が訪れた二人。星來の楽屋に訪れていた朱朗は、あの時の結婚ばなしをぶり返していた。



「ほら、芸能界なんていつまで生き残れるかわかんないし、うちってお金持ちだけど母さんの金遣いの荒さからいつ破産宣告されるかわかんないじゃん?」


「…………」


「ほら、あお兄は反抗して芸能の道やめちゃったし、亜泉あずみ兄は全然芽が出ないしさ。」



朱朗の歳の離れた一番上の兄、青司あおしは無理やり芸能の道に進ませる母親に嫌気がさし、中学の時に不良になってから事務所をやめてしまった。



二番目の兄、亜泉あずみは朱朗の二個上で、ウェブモデルをかじった程度で大したメディアへの露出がなかった。



「でもひい爺ちゃんの七光りがある星來ならこの先芸能界で細く長く生きられると思うんだ。だから俺が食いっぱぐれたら養ってもらいたくって」 

  

「はいはい分かったって!もう何度も聞いたしそれ!」



“僕”から“俺”になった朱朗の言葉にうんざりな星來。



星來は台本をテーブルに投げると荒々しく席を立つ。



「え?怒った?……怒ってる、よね。」


「はあ?ウザい!私はいつもお菓子はカロリー低いのにしてって言ってるのにスタッフが何回言っても聞かないから今から言いにいくのよ!」



星來は反抗期を迎えていた。楽屋から出て行こうとする星來の前に、朱朗が立ちはだかる。



「だめだよ星來!スタッフさんに当たるなんてどうかしてる!」


「うるさいな。どいてよ朱朗キモい。」


「ねえ星來の七光りは確かに神々しいものだけど、天狗になるのはだめだよ。ろくな大人にならない。」


「朱朗みたいなろくでもない子供に言われる筋合いはない!」


「頼むから、星來!星來さま!ちょっとだけ落ち着こ?」



朱朗は星來を必死になだめた。肩をさすり、顔を真横に近付けて。



星來は抱きしめられているような感覚に、全身が硬直してしまう。



12歳でも朱朗の身体は男の子だった。背はまだ同じくらいなのに、彼には筋肉の固さがある。男の子だと実感するには充分だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る